その3より
では、タットワカードを使ったスクライング(スクライイング)の手順を記そう。しかし実際の魔術日記とは異なる部分がある事は了承していただきたい。何故なら、スクライングの様子には術者の霊的な状態が反映されるからだ。敵対的な術者や霊的存在に取って、その記録は術者の位置情報で有り、セキュリティの穴を記した図面でもある。そのため、その記録は公開してはならない。
では実行の手順を記す。
実行手順
- スクライングの題材を決める
- 題材に相応しいタットワを選択する
- 場の浄化
- 題材を心に沈める
- 扉を開く
- ビジョンを得る
- ビジョンからの帰還
- 場を閉じる
- 記録と解釈
- 忘却
過程が多いと感じるかも知れないが、慣れれば楽な物である。1~4は5,6分で終わるし、私が行う場合、記録を除いた過程が10分から15分程度のこともしばしばだ。記録は結構時間が掛かるし、解釈は上手く行かないときもある。
1.スクライングの題材を決める
漠然とタットワビジョンを行っても結果は伴わない。もしあなたが興味本位で行うとしても題材はきちんと決める必要がある。今回の例では魔術亭の栄光を高めるには、という題材にした。
2.題材に相応しいタットワを選択する
これが案外な問題である。日本語では、5元素×5つの組み合わせのテーマがほぼ公開されていない。私は「高等魔術実践マニュアル」(著:朝松健 学研)に掲載の内容を元に行っている事が多い。私が知る限り25パターン全てを記しているのはこれだけだ。この本は、1987年に出版され、とうの昔に絶版になっている。Amazonなどで中古は出ているのでお買い求め頂きたい。とはいえ、それだけでは不親切だ。そこで近々分かりやすくまとめたものを公開したいと思っている。(もちろん、著作権法は遵守した上で)
今回の例では空の火を選択した。
3.場の浄化
一般的には、カバラ十字や五芒星小儀礼(開場)をもって場の浄化を行う。場の浄化は、日常とオカルトの場を区別するために必要なものだ。これを行うことで、あなたの部屋は日常の場から非日常のオカルトの場に変貌する。もちろんその場は、他人が儀式中に入る恐れが無く、静かであるべきだ。儀式の強制的な中断は精神に悪影響を及ぼすことがある。
4.題材を心に沈める
場の浄化が終わったら改めて題材を心に刻もう。題材を書いた紙を必死に見つめても良いし、何度か口に出すのも良い。それが終わったら一旦題材について考える事を止める。あが、心配する必要は無い。心の奥底に題材は種火のように埋められる。
5.扉を開ける
そしていよいよカードを使用する。2で選んだタットワと、ブランクカードを手に持つ。私はタットワを右に、ブランクを左に持って使う。
選んだタットワを目に焼き付ける。そして視線をブランクに移す。タットワの残像がブランクに映ったら、タットワを強く意識し、視界の中でドアのように拡大する。もちろん、これを行うには視覚化の訓練が必要だ。それについてもいつか書きたい。
大きく拡大されたタットワを扉に見立てて開き、くぐり抜ける。
6.ビジョンを得る
タットワの扉をくぐり抜ければすぐに異界が広がるかというとそうではない。「実践カバラ」(著:大沼忠弘 人文書院)によると長いトンネルと抜けた先にはもう一つ扉が有り、その先には案内人が居る事になっている。
私の場合、いささか異なっている。これは私が書物による独学による物だろう。
タットワの扉を抜けると、雑念の粒が襲ってくる。その雑念の粒を受け流して行くうちに、これだ!と思える大きな塊がやってくる。それに飛び込むとビジョンが見えると行った感じだ。この雑念の粒に意識を捕らわれるとビジョンを得る事は出来ない。その時は潔く諦めて終了しよう。粘ってもあまり良い事は無い。私の場合、雑念の粒が襲ってくる時間は、体感で30秒から2分ほどだ。
扉を超え、雑念の粒を超えた先は高い天井を供えた広場だった。円形の壁にはエンタシスの柱が立ち並ぶ。客席らしいスタンドには無数の人。中には悪魔のような影や昆虫人間もある。足下には細かい砂。私は半径30m程の闘技場のど真ん中に立っていた。気がつけば私は筋骨たくましい剣闘士になっていた。手に持つのは2mを超える鋼の巨大な杖。魔導剣士か?真正面の巨大な扉が開き、マンティコアが進み出た……。
7.ビジョンからの帰還
ビジョンに入り込んでいると時が経つのは早い。しかし終わりの時が来る。案内人がいるならその誘導に従うべきだろう。居ないなら、引き際を自分で判断することになる。私の場合集中力の低下を感じたら、どんなに興味深いビジョンの途中でも帰還する事にしている。
ビジョンからの帰還は、自分でスイッチを決めておくと良い。目覚まし時計や朝日が昇る様子など、目覚めをイメージする物は如何だろうか?
ちなみに、ここまで目は開いたままだ。しかし、意識は遠い異界に飛び立っている。端から見たらさぞ不気味な光景だろう。
8.場を閉じる
現実に帰ってきたら場を閉じよう。その際にも場を開くのと同じくカバラ十字、五芒星小儀礼(閉場)を用いる。もし、ビジョンを得る事が出来なかったとしても、開場を行ったのなら場を閉じよう。
場を閉じたら深呼吸をしたり、ストレッチをするなどして、自分が現実の場に居る事をきちんと認識しよう。これで儀式の過程は終了だ。後は後始末となる。
9.記録と解釈
タットワによるスクライイングが終わったら、記録を行おう。記録は伝統的には紙のノートだが、コンピュータやスマホでも構わない。しかし、どの記録手段を取るにせよ、人に見せないことだ。
記録を行ったら、解釈しよう。その際霊的な指導者が居るなら、記録を見せて共に考える。解釈には様々な象徴に関する知識などが必要となるだろう。見えた物をそのまま解釈するのは余り賢い選択とは思えない。ビジョンはしばしば思いも寄らない解釈を要求することがある。
10.忘却
記録と解釈が終わったら、不思議なビジョンのことは一旦忘れよう。日常の世界とオカルトの世界を区別することは非常に重要だ。その事については、こちらの記事を参照されたい。
※参考:「高等魔術実践マニュアル」(著:朝松健 学研)
「実践カバラ」(著:大沼忠弘 人文書院)