私が視覚化らしきことを初めて行ったのは、小学生低学年の頃だったと思う。それは算数の授業であった。足し算の筆算をする際に、繰り上げをする感覚を掴めずにいた。それを克服するために脳裏に黒板を作り上げ、となりの桁に繰り上がった1を送るアニメーションを作った。繰り上げができれば繰り下げもできる。筆算が得意になった。
次は立体だった。四面体、六面体、八面体などの多面体を脳裏で回転させ、アニメーションさせた。算数、理科など、脳裏でシミュレート出来るものは何でもそのようにした。逆に脳裏でシミュレート出来ない教科単元は苦手だった。今の仕事でもこのようなシミュレートは良くやっている。仕事の段取りを一人でじっくり考える際には、シミュレートしてチェックする。私の中で視覚化は、この様に準備されていたのかも知れない。
日々の訓練の中で、五芒星を視覚化する事をしている。私はこれが苦手だった。図形の視覚化は魔術師にとって基礎訓練だ。できないと様々なところで詰まってしまう。そんな中、苦手は苦手なりにやっていたのだが、ぼんやりとしていたり、想起出来る時間が短かったり。
そんな中しばらく前に、図形の頂点に注意を向けて視覚化を行うようにして見た。何故それを思いついたかは覚えていない。偶然だったのかも知れないし、トート神のお告げで有ったかも知れない。行ってみると、これまでよりくっきりした図形が視覚化されるようになった。それに伴って、他のこと、色の変化やアニメーションも良い影響が出た。ちょっとしたきっかけであったが私にとっては大きな変化になった。
有頂天になった私は魔術亭SNS内でその事を書いてみた。するととある先輩魔術師から別の意見を頂いた。その先輩魔術師は図形の辺に注意を向けて行って居るのだという。彼の場合、習字を習っていたこと、練習の際黒板を使っていたこと等が考えられる、とのことだった。
その話しを聞いてもう一度図形の辺に注意を向けて行ってみたが、やはり上手く行かない。その様なこともあるのだと知った。視覚化のような基礎技術であっても、人によってコツの違いがあるのは非常に興味深い。魔術は内面の技術であるので、その人が生きてきた環境、経験によって大きく左右される所があるのだろう。